『文藝春秋』9月号掲載の諏訪哲史「アサッテの人」を読んだ。
芥川賞受賞作なので、あまり期待せずに読んだ。
予想通り、面白く無かった。

この作品の、文学としての手法がどれだ巧みなのか私には
分からないが、この作者の取っている手法は、私にとっては
ややこしく、分かりづらかった。読んでたいそう疲れた。

また、冒頭の部分が句点ばかりの続く長文で書かれている。
読みにくいし分かりにくい。どういうつもりで書いたのかと腹が
立つほど。
同じ長文でも、宮尾登美子や中勘助のはリズムがあって
読みやすく、分かりやすい。芥川賞っていったい何なんだ。

内容は、大雑把に言えば、奇癖を持つ叔父さんの話。
私も大学生くらいの頃、この叔父さんと同じ癖があったので
気持ちや意味は分かるが、だから何なの?という気がする。

選評を読んでみたところ、石原慎太郎氏の

  作者の持って回った技法は私には不明晰でわずらわしい
  ものでしかなかった

という評にもっとも共感した。

小説の価値って何なんだろうと、芥川賞受賞作品を読むたびに
困惑する。

小学生のときに読んでかなり面白かった記憶のある
『奇岩城』を読んだ。
例によって、面白かった記憶はあるが、どう面白かった
のか、内容は全く覚えていなかった。

内容は大体前半と後半に二分される。
前半では、伯爵の絵画を盗みに入ったルパンが撃たれ、
身を隠すが、偶然夏休みで当地に居合わせた高校生
ボートレが、その事件を解決する。さらに、事件現場近くに
残されていた羊皮紙の暗号を元にルパンを追おうとする。
後半では、ボートレ少年がルパンを追跡し、ルパンの策略に
翻弄されながらも、その根城を突き止めるにいたる。

変幻自在で、茶目っ気にあふれているルパンはここでも
非常に魅力的で、読むものの心を離さない。そして、
読者と同様にルパンの魅力に取り付かれたボードレが
その後を追うのである。

先が見えず、意外な展開の連続にわくわくするのは「813」
と同じ。
ただ、小学生のとき、強烈に「面白い!」 と思った記憶ほど
ではなかった。

本屋で、外国の小説で面白そうなのを探していたら、
『813』が目に留まった。
あの怪盗ルパンシリーズらしい。

ダイヤモンド王、ケッセルバック男爵の秘密をめぐり、
ルパンとその敵手とルパンを追いかける保安課長の
三つ巴が展開されるのだが、息もつかせぬ展開に
ハラハラドキドキし、最後はあっとどきもを抜かれる。

だが、話が途中で終わってしまった。肝心の謎解きが
されていない。どういうことかと思ったら、『続813』
いうのがあって、謎解きはそちらに描かれているらしい。

で、そちらも読んだ。これまた話がどんどんと壮大に
なっていくのでつい引き込まれる、そして、ルパンの戦い
は意外な結末を迎える。

なんだか他のルパンシリーズも読みたくなった。


ところで、私が小学生の頃、家に小学生向けのルパン
全集があり、すべて読んだはずなのだが、内容を全然
思い出せない。
『続813』の途中で、「あっ、これ知っとるわ」とかすかに
思ったが、結末はまったく覚えていなかった。

全集を買ってくれた両親には申し訳がなく、また、大変な
時間をかけて全集を読破したであろう小学生の私にも
申し訳がない気持ちになった。
そして、私はひょっとして時間を大変浪費し、損な人生を
送っているのではないかという疑念が湧いたが、それは
気づかなかったことにして、ルパンシリーズはやっぱりもう
一度文庫で読んでおこうと思う。

J・アーチャー『ケインとアベル』の帯に「この本を読まないのは
人生において大損だ」的なことを書いていたので、読んでみた。

アメリカの銀行家の息子、ウイリアム・ケイン と ポーランドの
貧乏猟師の息子として育った グワデク・コスキェヴィチ
(後にアベル・ロフノフスキーと改名)の二人の生涯を描いた
ものがたり。
一見なんの接点も無い二人だが、下巻でグワデクが渡米し
てから、一気に物語りは展開していく。
上巻で描かれる渡米するまでのグワデクの生涯は波乱に
満ちており、あまりのむごさに涙することも多い。

感動したので、『百万ドルをとり返せ!』 『新版 大統領に
知らせますか』
『無罪と無実の間』 も読んだ。

もっとも楽しめたのは、処女作『百万ドルをとり返せ!』。
原題は『Not a Penny Less, Not a Penny More』。
詐欺に遭ったことを機に、全く見ず知らずの4人が協力して
被害額100万ドルを取り返そうとするものがたり。
その際の合言葉が「Not a Penny Less, Not a Penny More」
1ペニーの多寡もなく(100万ドルをとり返せ)なのである。

4人の内訳は、アメリカ人の大学教授、フランス人の画商、
イギリス人の医者、イギリス貴族であり、それぞれに個性が
際立っている。
この4人がそれぞれに知恵を絞り、計画を練って実行に移し、
お金を取り戻していく様子にはハラハラドキドキさせられる。
読了した時は「もう続きは無いのか・・・」と寂しかった。

『新版 大統領に知らせますか』 は、シャレが多いようなので、
原文で読めたほうが面白いだろう。

『無罪と無実の間』 もそれなりに楽しめたが、『百万ドルを
とり返せ』 の後では印象が薄かった。

作者である ジェフリー・アーチャー は、もとイギリスの国会
議員であったが、詐欺に遭い100万ドルを失ったらしい。
地位も名誉も失い無一文に成り果てた時、彼が生活の糧を
得るために書いたのが『百万ドルをとり返せ』 だという。
自分の経験をもとに書いているのだから、面白いはずである。

吉村昭氏が死去したというので、買い置きして
あった『背中の勲章』(1982新潮文庫)を読んだ。

第二次世界大戦で捕虜となった中村末吉が帰国する
までを描いた作品。
「生きて虜囚の辱めを受けるな」との教えを叩き込まれた
中村は幾度となく死のうとする。 だが死ねず、アメリカで
PW(Prisoner of War)の文字を背負い、屈辱を味わ
いながらも生き続け、最後は帰国する。

日本の必勝を信じて己を鼓舞し、屈辱にまみれながらも
なお生きる中村末吉の姿には何度も涙する。
また、硬質で無駄の一切無い文章がすばらしい。

終戦の日が間近なこともあり、思うところの多い作品だった。

大学院のI先輩から、桐野夏生『顔に降りかかる雨』が面白いと
聞いたので、読んでみた。

夫を亡くした女性が主人公で、主人公の友人がヤクザの
金、1億円を持って姿を消したところから話が始まる 。

かなり最初の段階で結末がなんとなく分かってしまうものの、
読者を最後まで飽きさせない構成になっており、楽しめた。
また、一般的には受け入れられがたい奇癖&趣味を持った
人々が続々登場してきて、全体的になんとも不気味な雰囲気
がかもしだされている。
ラストは火サスっぽい。

続いて、同じ著者の『OUT』上・下も読んだ。

弁当工場で働く主婦たちが、仲間の夫殺害を機に、死体解体
に手を染めていく様子が仔細に描かれる。

登場人物の描き分けが緻密で、ストーリーはグロテスクだが
なんとなく親近感を持って読める。
また、最初はまったく関係のない人々が、ひとつの事件を契機に
つながって行き、状況がどんどん変化していく様子が鮮やかに
描かれており、読み進めるうちにどんどん引き込まれていく。

桐野夏生の他の作品も読んで見たいと思った。

ラジオを聴いていたら、本の紹介をしていた。
坂井直樹「デザインのたくらみ」である。
なんとなく興味をそそられたので、買ってみた。

雑誌「PEN」に連載していたコラムを本にしたもので、
車や国旗など様々なモノのデザインや、デザイナー
について書かれている。
「デザイナー必見の書」と紹介されているが、私のような
デザインについての知識が皆無の人間が読んでも
十分面白い。

日常生活の中で見過ごしがちなモノ、例えば爪楊枝や
液晶テレビなどのデザイン性についても書かれており、
「そういう風にして見ると面白いな」
と気づかされることが多く、結構勉強にもなる。

もともとコラムなので、どのページから読み始めても
いいというのも良かった。
娘をあやしながら、あっという間に読んでしまった。

円地文子『女坂』 を読んだ。

時代は明治のはじめで、主人公は白川倫という女性。
彼女の夫をはじめ、息子も孫も恐ろしく女癖が悪く、
倫は終生彼らに苦しめられる。
だが、彼女は生来の気の強さで耐え、苦しみを顔色に
あらわさず家内のことを取り仕切り続ける。
そんな彼女がいまわの際になって発することばは重く、
周囲の人間、とりわけ夫の胸を衝く。

どんな辛い目に遭おうとも家庭を維持するという責務を
己に課し陰に陽に努力し続ける倫の生き方は読み手に
深い感銘を与える。また、倫以外の登場人物の細かな
描き分けも鮮やかで、作品全体が生き生きとしている。
更に文章も流れるようで美しく、一度読み始めるとどんどん
引きこまれていく。

宮尾登美子『きのね』 を思い出し、もう一度読み直して
比較したくなった。

加賀乙彦 『スケーターワルツ』 を読んだ。

主人公は19才の女子大学生。彼女は幼少の頃からフィギュア
スケートに打ち込んでいるのだが、大会を前に減量し始めたのを
きっかけに拒食症となる。最終的に彼女は自分の心の病を克服
するのだが、挫折から立ち直るまでの経緯がなんとも爽やかに
描かれていて好感が持てる。

筆者が精神科医であるためか、登場人物の心の動きが
精緻に描かれていて非常におもしろい。

ちなみに加賀乙彦はM氏の推薦。どの作品も読み応えがある。
今まで『スケーターワルツ』以外に 『ゼロ番区の囚人』・『湿原』 
の二作品を読んだ。

『ゼロ番区の囚人』 は刑務所を舞台とする小作品集。
『湿原』 は冤罪を着せられた二人の男女の物語。

どの作品も面白いのだが、シチュエーションが若干似通っている
ので、たて続けに読むと少し飽きてしまうかも知れない。

田山花袋の『蒲団』 を読んだ。

今まで一度も読んだことは無かったが、粗筋だけは知っていた。
簡単に言えば、文学者である師が女弟子を秘かに恋慕し、その弟子が
去った後、弟子の蒲団の匂いを嗅いで悲嘆に暮れるという話。

この粗筋を知ったのは高校生の頃で、「気色悪っ!読まずにいよう」 
としか思わなかった。

しかし何となく手にとって読んでみると、これがなかなか面白い。
女々しくみっともないオジサンの話ではあるが、そこに人間の情けなさ
というか、切なさ、愛らしさのようなものがそこはかとなく漂っている。
名作と言われる所以であろう。