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ハト


ベランダにある室外機の上に、ハトの巣があった。
洗濯物を干そうとしてふと斜め上を見ると、ハトと目が合う。

ハトというのは、よくよく見るとほんとうに気持ちの悪い外見を
している。灰色ではなく、黒や緑っぽい色の羽が重なってえも
言われない色をしており、図体は結構大きい。
そして、目。顔の両脇についているので、目が合うといっても、
向こうはいつも片目だけでこちらを見ている。ぞっとする。

ハトが留守の間に巣をこわそうと思っても、卵を抱いている
らしく、ずっと居座っているので、壊せない。

だがある土曜日、ハトが巣にいない。千載一遇のチャンスと
ばかりに、「ハトが戻ってこないうちに巣を壊して」と夫に頼む。

頼んでから、「ひょっとして、卵がかえったから、母鳥いない
のかな。餌を探しに行ったのかも。そうだとすれば、巣に
ヒナがいるかも」 とボンヤリ思っていたら、ベランダから夫の
悲鳴。

果たせるかな、巣からヒナが落ちてきたのである。
「やっぱり~」というと、「分かってるならはやく言え」と夫激怒。

2羽のヒナはばたばたと動いている。骨折などはなさそう。
黒っぽいからだに、黄色い細い羽がまばらに生えている。
人間の赤ん坊で言えば、まだ4~5ヶ月といったところか。
自分で飛ぶこともできない赤ん坊から家を奪うとは、なんと
むごいことをしてしまったのだと自責の念に駆られる。
でも、やっぱりきもちが悪いのでさわれない。

私がおろおろしている間に、夫はダンボールに新聞紙を敷き、
その中にヒナを入れた。

「えっ。何してんの?きっともう死んじゃうよ。墓穴掘る場所
探さなきゃ。裏の畑にこっそり埋める?」
「何を言ってるんだ。責任を持って、飛べるようになるまで育て
なきゃ」

そして夫は鳥の餌を買ってきて、それを湯でふやかし、
ヒナに与えようとした。だが食べないので、卵のパックに
餌と水をいれ、箱の中に置いた。
私は何もしなかった。怖いので、ヒナを見ようともしなかった。
かろうじて応援だけした。

ダンボールの中で死んでいるのではないかと、毎日恐れ
おののいていたが、母鳥らしきハトがやってくるようになり、
3週間後、気がついたらヒナは巣立っていた。

「はー。死ななくてよかった。」
「そうだねえ。ハトの死骸埋めるのいやだもんねえ。」
「そういう意味じゃない」

アンタ、業の深さを自覚したほうがいい。絶対地獄に落ちる
と言われた。

業の深い私は、以来、ハトがベランダに飛んでくるたび
棒を振り回し、威嚇するようになった。
たびたび小ぶりのハトが二羽そろって飛来し、じっとこちらを
見ていたが
「もうここはアンタたちの家じゃないのよ」
と、昔話に出てくる意地悪な継母のようにハトきょうだいを
追い払った。

二羽の小鳩を追い払った話を夫にすると、夫は嬉しいような
寂しいような顔をした後、
「まあ、そのくらいしないとまた巣を作っちゃうかもしれない
もんな・・・」

当たり前である。もうあのような恐怖体験はコリゴリ。
何もしなかったけどね。
by jiubao | 2009-05-28 11:51 | 雑記